本プロジェクトは、コスメティックブランドのためのビジュアルアイデンティティ開発を目的として進められました。ブランドの根底にある「日常を超えた非日常感」と「洗練された軽やかさ」をどのようにデザイン言語へと落とし込むかが最大の課題でした。単にラグジュアリーさを強調するだけでなく、消費者にとって親しみやすく、かつユニークな体験を提供できるブランド像をつくりあげることが求められました。
まず初期段階では、ブランドの創業背景やターゲット層に関するリサーチを実施しました。インタビューや市場分析を通じて、現代の消費者が求めるのは「完璧さ」よりも「自分らしさを表現できる余白」であることが明らかになりました。この洞察を軸に、ロゴやパッケージのフォルム、配色の方向性を決定。モノトーンを基調にしながらも、差し色としてスモーキーなブルーや柔らかいオレンジを取り入れることで、緊張感と遊び心を同時に表現しました。
次のステップでは、実際のユーザー体験を想定し、さまざまなタッチポイントでのブランド表現を検証しました。パッケージを手に取った瞬間の質感、ウェブサイトを訪れたときの視覚的リズム、店舗空間に流れる照明や香りまでを含めて「一貫性」を持たせることを意識しています。特にウェブデザインでは、ビジュアルがただ美しいだけでなく、直感的に操作できることを重要視しました。ユーザーが迷うことなく欲しい情報へアクセスできる導線を確保しつつ、アニメーションやマイクロインタラクションでブランドの世界観を体感できるよう工夫しています。
さらに本プロジェクトでは、持続可能性も重要なテーマとして位置づけました。パッケージには再生可能素材を活用し、不要な装飾を極力排除することでミニマルな印象を強調。これにより、環境に配慮した姿勢をデザインとして可視化することができました。この取り組みは、消費者のブランドへの信頼を高めるだけでなく、企業の社会的責任を果たす象徴としても機能しています。
最終的なアウトプットは、ビジュアル的な美しさと機能性のバランスを追求したトータルなブランド体験へと結実しました。ロゴ、パッケージ、デジタルプレゼンス、店舗設計といった多様な要素を横断的に統合することで、ブランドが持つ哲学を一つのストーリーとして伝えることが可能になりました。
このプロジェクトを通じて改めて実感したのは、「デザインとは単なる装飾ではなく、文化や価値観を翻訳する言語である」ということです。ブランドが語るべきメッセージを的確に翻訳し、視覚体験へと変換する。その過程で、デザイナー自身の審美眼と遊び心が大きな役割を果たしました。今後もこうした実践を積み重ねることで、より深みのあるデザインを生み出していきたいと考えています。
